平成11年度の研究実績は、まず琉球における官話と漢語・朝鮮語による琉球語資料に関する原資料と関連する論文を収集し、文献目録を作成した(未刊)。そして、その成果として琉球大学法文学部紀要の『日本東洋文化論集』第6号に「クラプロートの琉球語研究」と題する論文を発表した。この論文は、ドイツ人クラプロートが1810年に発表した論考「Sprachproben von Lieu-kieu(琉球の言語サンプル)」について論じたものである。クラプロートはこの論考において十六世紀末、周鐘等により編纂された『音韻字海』に収められている、漢語の語彙に対して琉球語語彙を漢字で記した語彙集「夷語音釋」を扱っている。それは西洋の学者が琉球方言の研究を手がけ、琉球語の具体的な姿をヨーロッパに紹介した最も早期のものである。研究代表者の論文は『音韻字海』「夷語音釋」に関連する版本の問題や、先行資料からの語彙項目と寄語の継承などの問題を考察し、「夷語音釋」に関して先駆的な業績を残したクラプロートの研究が今日的な観点から如何に位置づけられ、またクラプロートの同時代人が『音韻字海』「夷語音釋」に対して如何になる評価を与えていたかを詳論した。その結果、時代的な制約により、クラプロートの研究自体は多くの問題を抱えており、今日的な観点から琉球語の共時的・通時的研究に資するための資料とはなり得ないことを論証したが、19世紀初頭の日本では『音韻字海』「夷語音釋」を琉球語ではなく、日本語と見なす言説が多く見られる点を指摘し、クラプロートの観点に一定の評価を与えた。加えて、「夷語音釋」全ての項目に対する語釈を行い、先行資料との継承関係も明らかにした。
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