外部的要因(環境)と相互作用する人間の認知システム内部に言語知識を位置付けようとする試みを発展させた。英語学、ドイツ語学、一般言語学及び認知科学系の幅広い文献・論文を通して得た知識と分析対象となる構文のデータをもとに、研究を進めた。本年度は、英語とドイツ語の対照分析を行い、両言語の認知論的特性と普遍性を明らかにすべく努めた。具体的には、英語とドイツ語の属性を表すとされる構文である中間構文(英語の例としては、This book sells well.、ドイツ語の例としては、Das Buch verkauft sich gut.'This book sells well.')の意味分析を行った。R.W.Langackerによって提唱される認知文法論では、文法形式は意味(=概念化)に基づいて動機付けられているとし、同じ文法形式を示す構文は意味的にも関連していると考える。そのため、属性を表す中間構文とは一見関連がないように思われるが、文法形式に共通性がある能格構文(英語の例としては、The door opened.、ドイツ語の例としては。Die Tur offnete sich.'The door opened.')やその他の自動詞文、再帰構文などについて幅広く分析を行った。その際、R.W.Langackerの"Dynamic Usage-based Model"に提案される最新のカテゴリー観に基づき、各構文が認知論的ネットワークを形成するものとして議論し、各構文がどのような認知プロセスを背景としているか、行為の対象と人間との能動的な相互作用がどのように関わっているかを明らかにした。
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