研究概要 |
本年度の研究においては、アーサー王伝説やトロイア伝説を基にした12世紀のロマンスにおいて、騎士の姿がどのように理想化されているかを具体的に分析した後、アングロ・ノルマン王朝時代の年代記に見られる国王や貴族の描写が、ロマンス文学における理想化された騎士の姿と明白な類似性を示していることを確認した。13世紀に入ると、騎士叙任の際の経済的な負担などが直接の原因となり、実際の騎士の数は減少した。しかしその結果、騎士身分の連帯感やエリート意識が逆に助長される結果となったと思われる。エドワード三世の時代には、対仏戦争の開始とともに国王と貴族・騎士身分との間に協力関係が生まれ、またアーサー王伝説の影響を受けた国王自らが馬上槍試合を奨励し、ガーター勲位を創設したために、騎士道賛美の傾向に拍車がかかった。続くリチャード二世の治下に書かれたジョン・ガウアーの物語集Confessio Amantisの中には、12世紀にアングロ・ノルマン語で書かれたRoman de Troie、および13世紀のラテン語訳Historia Destructionis Troiaeに基づくトロイア関係の物語が数篇収録されている。物語を語る語り手Geniusは騎士道を擁護し、理想化する立場から物語を語り進めるが、物語自体の内部には騎士の暴力が社会にもたらす弊害を示唆するような細部の描写が挿入されており、物語は複雑な様相を帯びている。この点に関しては、12月11日に駒沢大学で開かれた日本中世英語英文学会第15回全国大会のシンポジウムで口頭による発表を行った(発表題目「John Gower,Confessio AmantisにおけるGeniusの役割」)。また、平成12年5月14日に開催される日本英文学会第72回全国大会シンポジウムでは、ガウアーの物語内部に含まれた騎士道批判が、百年戦争が長期化する中で次第に高まっていった反戦的な世論と関連していることを論証する予定である(発表題目「Gowerの作品における騎士の表象」)。
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