まず当初の計画に沿って、アイルランドのポストモダニスム詩人Paul Muldoonの作品、特に最新詩集Hay(1998年)を精読した。この詩集は、以前にも増して多種多様な手法上の実験を取り入れている一方、タイトルが示すように、彼が生まれ育った北アイルランドの農村風景の象徴とも言える「干し草(hay)」をライトモチーフに据えている。現在はアメリカに在住し、活動範囲を広げたMuldoonは、こうした北アイルランドの題材を含めた様々な自伝的モチーフを、詩の中で自在に活用している。とりわけ、'hay'をはじめとする様々なモチーフを、前作The Annals of Chile(1994年)まで巻き込んだ壮大な韻のシステム構想の中に取込み、連関させていく手法に注目した考察を行った。その結果をまとめ、大学内の研究会(「都市英文学会」1999年7月)に於いて、「Paul Muldoonの最新詩集Hayについて」という題名で口頭発表した。その後、当該研究を行うにあたって日本では入手できない資料収集のため、9月11日より11日間アイルランド・ダブリン市に出張、トリニティカレッジ図書館および国立図書館を訪問した。加えて、科学研究費で購入したアイルランド現代詩人の作品や研究書、およびアイルランドの歴史書等の参考書により、当研究に必要な知識の拡大および深化に努めた。こうした研究を下地にして、平成12年度は、11年度のMuldoonの詩集に関して口頭発表した内容を、さらに広いアイルランド現代詩のパースペクティブの下に発展させ、年度内に紀要論文として発表するべく、準備を進めている。
|