研究概要 |
当初の研究実施計画に沿い、Paul Muldoonによる新しい評論To lreland,I(2000),Oxford詩学教授就任後の講演The End of the Poem :'All Souls'Night'by W.B.Yeats(2000)、またSeamus Heaneyなどのアイルランド詩人のテクスト、その他当該研究に関連する資料を精読した。その上で、8月頃からMuldoonのHay(1998)の手法に関する論文作成に着手。1999年7月に口頭発表した内容に基づき、大幅に加筆修正を加え、「交差するテクストーマルドゥーンの詩集Hayにおける回帰と展開」というタイトルで11月初旬に脱稿した。論文の主旨は、'hay'(干し草)のライトモチーフをはじめ、詩集Hayに秘められた数多くの趣向を指摘し、詩集Hayはそれらが互いに「交差」し合う仕掛けを無数に孕んだトータルなテクストであることを示そうというものである。具体的には、コンクリートポエム(絵画詩)やことわざのパロディ、「正誤表」の形式をとった同韻語の並記など、マルドゥーンが用いたポストモダンな実験的手法に触れ、さらにアイルランド史へのアリュージョン、北アイルランドからアメリカに渡ったマルドゥーン自身の自伝的モチーフー例えば結婚生活や中年としての自意識、詩人としての足跡と平行するロック・レコード史など-、そして言葉への執着が、長篇詩に張り巡らせた壮大な韻のシステムに反映されていること等を、詩集全体の綿密な読解とこれまでの資料調査に基づいて論証した。なお当論文は、東京都立大学人文学部『人文学報』第321号(2001年3月)に掲載された。
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