研究概要 |
背景:1990年代のはじめごろに打ち出された最近の音韻理論である最善性理論(Optimality Theory,最適性理論とも呼ばれる)の動向を探り、従来の理論と比較検討することを目的に研究を進めた。 最善性理論が打ち出された当初は、この理論の重要な仕組みである制約の順位付けの研究に重点が置かれ、制約の内容に関しては、研究がおろそかであったと言える。また、従来の音韻理論を用いるよりもこの理論を用いた方が理にかなった説明が可能な音韻現象に研究が集中する傾向にあった。 本年度の活動:(1)内外の研究者と意見を交換した。特にサンフランシスコで行われたICPhS(International Congress of Phonetic Sciences)に参加できた。この学会は、音声に関する科学全般に関する学会であり、音韻論以外の音声科学も含めた分野の最近の動向を肌で感じることができた。(2)資料の収集。1990年以降に欠かれた最善性理論に関係すると思われる文献を収集した。特に、博士論文は、網羅的に収集した。(3)本研究で得られた知見を元に共感理論(Sympathy Theory,最善性理論の下位理論)に基づき、日本語のガ行鼻濁音と連濁の相互作用に関わる音韻論的不透明性に関する論文を執筆した。 研究により明らかになったこと:本年度の研究により、次のようなことが見えてきた。 制約の内容に踏み込んだ研究:上で述べた通り、最善性理論が現れた当初は、制約の相互作用の研究に重点が置かれていたが、最近は、制約の内容に踏み込んだ研究が散見されるようになった。従来の音韻理論との比較:従来の音韻理論を用いた方が、理にかなった分析が可能であると考えられる現象について、最善性理論の解決案が提出されるようになってきた。
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