研究概要 |
古英語従属節における、いわゆる助動詞と非定形動詞を含む構文では、「助動詞-非定形動詞」という主要部先行型の語順と「非定形動詞-助動詞」という主要部後続型の語順が可能である。この2つの語順の選択がどのようになされるのかに関して、先行研究では(i)当該の要素の重さ、(ii)情報構造、および(iii)他動性という3つの要因が提案されている。本研究では第4の重要な要因として、主語、助動詞、非定形動詞以外の要素、たとえば非定形動詞の目的語や前置詞句など、の有無に着目し、それらの要素の有無が語順決定に重要な役割を果たしていることを明らかにした。すなわち、AElfric's Catholic Homilies,Anglo-Saxon Chronicle,Bede,Pastoral Care,Wulfstan's Homiliesという古英語の主要散文作品において、主語、助動詞、非定形動詞以外の要素を含まない従属節では「非定形動詞-助動詞」語順が多く用いられ、主語、助動詞、非定形動詞以外の要素を含む従属節では「助動詞-非定形動詞」語順が好まれると言う強い傾向が見られることが明らかになった。この発見の理論的解釈としては、次のように考察した。主語、助動詞、非定形動詞以外の要素、特に目的語や前置詞句を含んだ場合、非定形動詞を主要部とする動詞句全体は「重く」なり、従って重い要素は右方向に移動するという古英語に見られる一般法則に従って当該の動詞句が右方向に移動され、その結果「助動詞-動詞」語順が派生される。一方主語、助動詞、非定形動詞以外の要素を含まない場合、当該の動詞句は「軽く」、従って基底の「非定形動詞-助動詞」語順が保たれる。
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