研究概要 |
1999年度は,19世紀前半のアメリカにおける心霊主義・女性の地位向上運動・医療行為・ユートピア思想などに関する研究書をおもに収集し,それらの相互的な関係について研究してきた。 その結果,1830年代後半から1840年代にかけてアメリカに輸入されたフランスの社会改革運動家シャルル・フーリエの思想に基づき,社会改革を目的にニューイングランド地方を中心に数多く建設された実験的コミュニティーが上記の要素をつなぐ上で重要な役割を果たしたことを知った。 心霊主義は元来スウェーデンボルグの思想などの影響を受け,天上の世界との類比においてそれに近い調和した世界を地上にも実現させようとした思想であり,ここから女性が伝統的に置かれてきた立場の再検討という流れが生じる。また医療の分野では,当時優勢であった逆症療法(allopathy)に対抗して類似療法(homeopathy)が盛んになり,その中でもさかんに実践されたのが水治療(hydropathy)である。医学上のこの新勢力は,出産という労働を担わされ疲弊した女性の身体を見直す契機となり,水治療を目的とするコミュニティーも数多く建設され,構成員の多くがユートピア思想の支持者であったり,それに近い宗教的信念の持ち主であったりした。 19世紀前半のアメリカにおけるこれらの現象の中で散見されるのは,理想的社会の建設のため社会の秩序を優先するか,それを構成する個人の自由を優先するかという問題である。その議論の中には常に女性の地位の問題が含まれる。2000年度は,この時代に実験的コミュニティーが発行した機関誌や同時代の作家ナサニエル・ホーソンの小説,そしてラルフ・ウォルドー・エマソンら超絶主義者たちの文章といった一時資料を分析して,これらの問題について考察していく。
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