本研究は『カイエ』におけるポール・ヴァレリーの心理学的哲学的思想の形成を、19世紀後半の思想状況(連合論心理学や新カント派)との比較をふまえてあとづけ、そのことによって『カイエ』の断章のより一層正確な読解を試みるものである。平成12年度も前年度にひきつづきこのような観点から研究をすすめた。とくにヴァレリーが1900年前後によく読んでいたカントの『純粋理性批判』のうち、「図式論」や想像力に関する問題を取りあげ、それがヴァレリー的な想像力の問題(「イマジネール」)とどのように交錯しているのかを検証した。カントとの関係については、すでに前年度に『注意に関する論文』をめぐって、特にヴァレリーの「表記法システム」とカントの悟性概念との関係を中心に研究を進めていたが、「図式論」に関する議論を加えることで、より広い見地から問題を考えることが可能になった。また他方では、フランス国立図書館にて『若きパルク』の草稿調査を行い、ヴァレリーの心理学的哲学的議論と詩的な問題との関係を考える準備を調えることができた。その結果、彼の詩に表現された詩的空間は、彼の思想が理論化しようとしていたイマジネールな空間と一致するのではないかという見通しをつけることができた。 カントの「図式論」とヴァレリーの想像力の関係の一端については、2000年5月に南仏セートで行われたヴァレリー国際シンポジウムで発表した。また他の観点からの考察を日本ヴァレリー研究センターの機関誌『ヴァレリー研究』第2号に掲載する予定である。
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