本研究はまず、日本語史の区分の中で最古の段階を構成する奈良時代及び平安時代初期・中期の言語に関して、そのモダリティ表現が本来どのような意味領域を占めていたのかについて調べることを出発点としたが、一般言語理論との照合や他の言語との比較によってモダリティ表現の枠を超えて、一般的言語学さらには言語普遍性のレベルをも視野に入れたモダリティ表現の理解に貢献することを目指していた。そこで本年度は、モダリティーの理論的枠組みと日本語のモダリティ表現の意味的変遷の一般的な規則について調査・研究を行ったが、その成果は裏面の研究発表欄で挙げた文献で公表される。まずは一般言語学の機能・類型論的な視野から「モダリティ」の今までの定義を批判的に検討した上で、再定義を行った。そして、その定義に該当する表現の意味的変遷について、日本語では方向性が観察されることを主張した。これはどういう方向かというと、動詞句を中心とした場合、各表現がより「外側」へ、つまり命題的な内容から談話的な内容、客観的な内容から主観的な内容へ変遷していき、その逆の可能性はないと主張した。 また、一般的な理論を裏付けるためには、具体的な現象についての線密な記述も必要になるが、この場合上代語の「べし」の分析、とりわけその多義性と多義性と意味変遷の関係についての分析を行ったが、未だ研究成果公表の段階には至っていない。計画書にもあったように、ドイツ語と英語との史的変遷との比較も行う予定だが、これが次年度の作業となる。また、ドイツ語と英語の他に新たにアイヌ語との異同の比較も試みる予定である。
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