本研究は、チュクチ語の形態論に関する記述を行なうものであるが、具体的には以下が今年度の研究成果として得られたものである。 1)今までの現地調査で得られた資料に基づいて、チュクチ語の使役表現について、自動詞・他動詞との関わりを視野に入れながら、網羅的に記述した。とりわけ、使役接辞による「形態的使役」と助動詞を用いる「分析的使役」について詳しく調査した。その結果、チュクチ語の使役には「単純使役」「二重使役」の他に「逆受動使役」があることも分かった。従来の研究では、「単純使役」だけしか扱われておらず、使役の範囲が狭くとらえられてきた。この点では先行研究よりも一歩進んだ記述が可能になったと考えられる。現在はこれを論文化し、学術雑誌で発表する準備中である。 2)今年度はまた、チュクチ語の多様な否定表現についての記述も行なった。チュクチ語では、否定を表わすのに四種類の小詞、二種類の接辞が用いられるが、これらは主語の人称、述語動詞がとる時制などによって細かく使い分けられていることが確認できた。さらに過去時制にかかわる二つの否定小詞にニュアンスの違いがあることも分かった。
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