研究概要 |
平成11年度は次の2点について重点的に研究を行った。 第一に、Chomsky(1995)のabstract light verbやHale & Keyser(1993,1997)の語彙レベルの統語論を用いてより広範な日本語の述語を分析し、語彙内部の一般化を確立することを試みた。これらの立場によれば、下位の(語彙範疇的)動詞の投射は起動相(inchoative)に、上位の(機能範疇的)light verbの投射は使役相(causative)に対応する。研究課題である日本語感情形容詞については、起動相の投射の内部がさらに状態(state)というより原初的な概念と対応することによって、形態統語的な交替が説明可能ではないかという中間的結論に至った。 第二に、生成文法と日本語学の知見の統合を達成するための手順として、感情形容詞についての生成文法および日本語学の文献の収集・整理を行った。その結果、生成文法の分野では日本語感情形容詞を扱った文献はきわめて少ないことが分かった。しかしながら、Hale,DeChaineなどアメリカ・カナダの研究者がNavaho,Plains CleeなどのNative American言語における形容詞と動詞の語彙的統語的対応を報告・分析しているので、これらを参照にして日本語の分析に援用したい。また、日本語学の分野では、現在時制における人称制限および他の時制におけるその解放について、文脈・視点などを取り入れた機能主義的な分析をとる研究が多いことが分かった。 したがって、来年度の重点目標の一つは、この日本語学の知見を生成文法、とりわけ第一点で述べた語彙的統語論においてどのように表現するかを解明することである。
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