アメリカでは音読・朗読が20世紀初頭まで連綿と続いていた普通の読書法であったことを示すことが本研究の第一の目的である。そこで、本年度は、アメリカにおける音読と朗読の実例を集めるという地道な基礎的作業が中心になった。 その結果、たとえば、18世紀の代表的な教科書であるノア・ウェブスターのAn American Selection of Lessons in Reading and Speakingは、現代のリーダーとは違って、全体が音読・朗読のためのアンソロジーであると明示されていることが明らかになった。同様に、19世紀の代表的な教科書であるウィリアム・マクガーフィーのEclectic Readerも興味深い資料であることが分かった。なぜなら、その中で、シェークスピアや聖書などの一節がが音読・朗読の対象になっていたことは当然ともいえるが、ベーコンやフランクリンなどの比較的難解な英文までも音読・朗読の対象になっていたからである。 その他、文学作品では、たとえばルイザ・メイ・オルコットのベストセラー『若草物語』のなかに、一人で書物を読むことができる伯母に、主人公のジョーが本を朗読してあげる場面があった。これは朗読を聴く行為も読書であったことを示していると思われるし、ハーマン・メルヴィルの有名な『白鯨』にも、聖書をひとりで音読していた老人が聖書の口調で話をする場面があった。これは、音読することによって、その書物と、あるいはその書物の語り手と、一体化することを示唆しているように考えられる。このような、音読・朗読が行われていた証拠集めを来年度も続けたい。 なお、本年度の研究が進むにつれ、日本における音読・朗読にも興味の対象が広がり、関連する資料の集められた。日本とアメリカの状況を対照させることも、本研究の目的の遂行に役立つと思われる。
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