ウェルギリウス『アエネイス』第9巻(および第5巻)におけるニススとエウリュアルスのエピソードの材源について、従来は主にホメロス『イリアス』第10巻が注目されてきたが、より広範な文献を比較対象とする必要性が明らかとなった。例えば、『オデュッセイア』におけるテレマコスの旅(特に第2巻の出発時の状況)、エンニウスの叙事詩中のポエニ戦争のエピソード、伝エウリピデスの悲劇『レソス』などである。また、若者二人の友情(愛情)という点でも、『イリアス』や一部のギリシア悲劇との関連が認められる。 このうち、『オデュッセイア』については「策略か武勇か」というモチーフが常に付随している。他の材源についても、こうした面でのニススとエウリュアルスのエピソードとのかかわりを見出すことは十分可能だと考えられる。 また、『アエネイス』第9巻ではトウルヌスの活躍にも焦点が当てられているが、彼は策略と武勇を明確に対比させる発言をしており(150-153行)、ニスス、エウリュアルスとの対応は明らかである。今後はこの方面からの研究成果も期待できると思われる。
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