本研究は、ドイツ連邦共和国における「憲法抗告(Verfassungsbeschwerde)」の制度に着目し、個々の私人が法令の規定自体の効力・合憲性を直接に争うタイプの憲法抗告を提起するための手続要件(とりわけ原告適格要件)の実際上の運用・これをめぐるドイツ法学界の議論を明らかにすることを目指している。本年度においては、主に、法令を直接争う憲法抗告の手続要件の実際上の運用につき、関連資科の収集とそれに即した分析検討を進めた。そのため、最も重要な基礎資料であるドイツ連邦憲法裁判所の判例集およびドイツ法・ドイツ裁判制度に関する文献を購入するとともに、国立国会図書館・東京大学外国法文献センター等に赴いIて資料収集を行った。 以上を通じて収集した研究資料の分析検討の結果、(1)判例は、抗告の申立人が法令の規定自体によって「自ら・現に・直接に影響を蒙る事情」を原則的に要求しているところ、このうちでも最も議論の的となっているのは影響の「直接性」の要件であるが、1990年代初頭までの判例をみる限り、「直接性」の要件を充たさない場合であっても、例外的に原告適格を認めている事例がしばしば見出されること、(2)その際、連邦憲法裁による違憲審査の機会の実質的確保という見地から、そうした例外が認められている場合が見出されること、(3)同時にそこには、連邦憲法裁が、憲法抗告申立て件数の増加傾向の中で、自らの負担軽減との兼ね合いを考慮しつつ、自らによる違憲審査の機会を精選していこうとする姿勢も看取されること、を知見として得ることができた。もっとも、この問題に関する判例は膨大で、そこで展開される見解も実に複雑であり、なお関連資科の分析検討を重ねる必要がある。そこで、次年度においては、1990年代に入って以降の判例の分析をさらに進めるとともに、判例に対する学界の議論の動向を探り、本年度の研究成果と併せて論文の形にまとめる作業に取り組む。
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