本研究は、ドイツ連邦共和国における「憲法抗告(Verfassungsbeschwerde)」の制度に着目し、(1)個々の私人が法令の規定自体の合憲性を直接に争うタイプの憲法抗告を提起するための手続要件の実際上の運用、(2)これをめぐるドイツの法学界の議論を明らかにすることを目指したものである。本年度においては、主に、(2)につき、関連資料の収集とそれに即した分析検討を行った。そのため、最も重要な基礎資料であるドイツ連邦憲法裁判所の判例集の続刊、ドイツの憲法・憲法訴訟法・裁判制度および比較違憲審査制論に関する学術文献を購入するとともに、大阪市立大学に赴いて資料収集を行った。 その結果、(1)判例は、抗告の申立人が法令の規定自体によって「自ら・現に・直接に影響を蒙る事情」を原則的に要求しているが、影響の「直接性」の要件の充足を例外的に不要とする判例がある一方で、「影響を蒙る事情」の充足を肯定しながら、「憲法抗告による救済の補充性」の原理を根拠として、憲法抗告を却下する判例も登場していること、(2)それは、自らの負担軽減を考慮しつつ違憲審査の機会を精選しようとする、連邦憲法裁の姿勢によるものであり、学説は、憲法裁による概念用法の不明確性を批判しつつも、憲法裁による判断の結論に対しては概して肯定的であること、(3)学説ではまた、個々人が法令の規定の合憲性を直接争うことを認める制度につき、迅速かつ適時の権利救済という長所とともに、憲法裁の過重負担、法令審査が観念化してしまうおそれ、といった短所も指摘され、調和のとれた手続要件の運用が模索され続けていること、等を知見として得ることができた。しかし、ドイツの制度の特色を明確にするには、オーストリア・スイス等における同種の制度との比較に係る関連資料の分析検討がなお必要で、本年度内には研究成果を論文の形にまとめるには至らなかった。
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