1.まず、「法律上の争訟」概念の背景にある憲法論の整理を行った。米国については、権力分立における「立法権」「行政権」「司法権」の捉え方が、「能力創設的」で、相互に重複可能な権能として理解されていることを明らかにした。これは、日本国憲法の解釈とまったく異なるところである。日本国憲法については、標準的見解における「立法権」「行政権」「司法権」の解釈論に、条文との不整合性があることを指摘し、明治憲法の大枠を維持している現在の標準的見解を、根本的に見直すべきことを提唱した。米国憲法と共通の、「能力創出的」な権力分立観よりすると、「立法権」「行政権」「司法権」は、それぞれ中核部分をもちつつも、その外延部分を伸縮させることで、ダイナミックな権力分立の関係を創り出すというイメージで理解することとなる。これにより、客観訴訟や実質的証拠法則など、これまでわが国でうまく説明ができなかった制度を、明確に憲法論的に位置付けることができる。(研究論文として、2001年6月公表予定。) 2.新たな権力分立観を背景にすると、裁判所法三条の「法律上の争訟」概念は、一定の立法政策上の選択であって、憲法「司法権」の限界を示したものという一般的解釈は、必ずしも根拠のないものとなる。いわゆる住民訴訟なども、行政活動のガバナンスとして理解しつつ、かつそれは「司法権」の範囲内として理解される(その一部を、研究論文として、2000年9月公表済。) 3.「法律上の争訟」概念をテコに、わが国の判例理論(事件性、原告適格、処分性、狭義の訴えの利益)を整理すると、「司法権」の中核領域および外延領域における伸縮、という1で示した権力分立観によってこそ判例理論をうまく説明することができることを指摘した。(2000年10月の公法学会報告。2001年10月発行の公法研究に所収予定。)
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