研究概要 |
欧州統合がドイツの憲法秩序に与える影響について,欧州統合の深化に対してドイツの国家機関がどのような国内法上の対応を行ったか,という観点から分析を加えた。ます,ドイツはマーストリヒト条約を批准するに際して憲法である基本法を改正したので,「ドイツ憲法の<ヨーロッパ>条項」と題する論文(石川明・櫻井雅夫編『EUの法的課題』(第5章)129頁〜192頁)において,基本法改正,とくに基本法23条の成立過程をこの条項の起草作業を行った連邦議会・連邦参議院合同憲法委員会の議事速記録を資料として解明するとともに,基本法23条に含まれる解釈上の論点を検討した。つぎに,ドイツ連邦憲法裁判所は,1993年10月12日の判決において,マーストリヒト条約の批准は基本法に違反しないと判断し,また,1998年3月31日の決定において,ドイツの欧州通貨同盟への参加を合憲であると判断した。そこで,「ドイツ連邦憲法裁判所のマーストリヒト判決」と題する論文(石川・櫻井編前掲書(第6章)193頁〜226頁)において,1993年判決の内容を紹介するとともに,この判決の主任裁判官を務めたキルヒホフ教授の論文を下敷きにして,この判決を検討し,この判決においては「国家の最終責任性」の確保という視点が重要な役割を果していたことを明らかにした。さらに,「欧州単一通貨(ユーロ)導入の合憲性」と題する論文(自治研究75巻5号)において,1998年判決を紹介・検討し,基本法の解釈に関しては,1998年判決は1993年判決を忠実に踏襲していることを明らかにした。
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