日米欧において、官民両セクターにより、ヒトゲノムの解析が進展している。国際協力の下で進められているヒトゲノム計画においては、DNA塩基配列の結果がすぐに公的データベースに登録されることになっているが、一方で、Celera、Incyteなどの民間企業によってゲノム解析結果の特許出願がさかんに行われている。本研究では、こうした現状を踏まえた上で、ゲノム解析に関連する知的財産権の保護について法的側面からの検討を行っている。一年目の本年は、裁判例やインタビュー結果に基づき、論点の抽出を行った。特に、次のような点が注目される。 1.米国では、State Street Bank事件判決を受けて、特許対象が広がっている。今後は、DNAマイクロアレイによる遺伝子発現プロファイルやそのデータベースに関しても、特許保護の対象となる可能性がある。 2.進歩性に関しては、米国ではDeuel判決の影響により、解析手法が自明であっても得られたDNA塩基配列の非自明性を否定することにはならない。「実験手順からしても、ルーチンワークとはいえいずれの操作もいくつかの選択肢が存在するため、DNA塩基配列の非自明性は妥当」とする考え方が米国実務家の間では主流のようである。 3.有用性に関しては、ホモロジーサーチで何らかの機能が推定されれば有用性ありとする米国と、実験室レベルの機能解明を要求する日欧との間に温度差がある。しかし今後、バイオインフォマティクスが進歩し、コンピューターのみによってかなりの確度で機能予測が行えるようになれば、日欧における有用性の考え方も変化する可能性がある。 4.米国では、現在有用性ガイドラインを定めるための検討が行われている最中であるが、プローブに使える、分子量マーカーに使えるといった「本質的でない有用性」しか持たない遺伝子断片は、有用性なしと判断される傾向にある。また、Written Description Guidelineも、遺伝子断片の権利化により全長遺伝子に対する権利をも主張するといった合理的でない行為を抑制する方向へと動きつつある。
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