研究概要 |
研究初年度である平成11年度は、基本的な分析道具の準備と分析視点の設定に役立つ基礎的な研究に主眼を置いた.それは以下の通りである. まず近時のファイナンス理論の潮流を検討した.伝統的な最適資本構成の議論から証券設計(security design)-キャッシュ・フローとコントロールをいかに組み合わせるかという観点-へと移ってきていることが分かった.このような視点は一定の範囲で法制度の説明に有用であるが,元来当事者の自由な取り決め(契約)の合理性を説明する道具であるから,法制度の説明には限界もある.今後は,法制度の固有の存在意義について研究する必要がある.以上に関しては,研究のいわば中間報告として近々公表を予定している. 第2に,企業金融をめぐる法制度に関するアメリカ,ドイツ、フランス3カ国の法制度の資料収集と検討を行った.とりわけエクイティ証券の設計に関する制約のあり方について、キャッシュ・フローとコントロールの組み合わせのあり方にどのような制約が置かれているかを中心に比較法的な考察を行った.今後は,各国における優先株式・利益参加社債,ドイツの共益証券,アメリカのトラッキング・ストック等,やや変則的な証券の規制に関してさらに検討を続けたい. 最後に、実証的研究に関しては,自らデータを収集・分析することには限界があり,先行業績の参照にとどまった.オプション系の証券の発行価額が必ずしも適正とは言いがたかったこと,そのことはわが国のエクイティ証券の有利発行規制の実効性のなさを示唆するものであること等が仮説として得られたが,今後この点については研究方法を含めて,再検討が必要と思われる.
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