どのようにして法人に刑事責任を負わせるのが妥当であるのかという課題に取り組む本研究における本年度の結果は、以下の通りである。 1 法人処罰に関するこれまでの我が国の議論を分析し、問題点の抽出を行った。この際、刑事責任の本質及びその行政責任・民事責任の本質との区別のあり方にも注意を払った。その結果、刑事責任が倫理的な非難可能性を中核とする内容を有するものであることは肯定できるとしても、それ以上に、後二者との理論的限界づけは未だ明らかにされておらず、この点が、法人処罰をめぐる議論の説得的な展開の制約となっていることが窺われた。 2 そこで、刑事責任の本質をめぐって、本研究で比較の対象とするドイツにおいてはより多くの議論があるため、その検討を行ったが、法人処罰の可能性を念頭に置いたときの理論的基礎づけには確固たるものが存在しているとは言えないという状況にあることが認められた。 3 法人処罰が我が国においてこれまでどのような機能を果たしてきたのかについての調査を試みた。現存する両罰規定は、具体的にどのような事案に適用されてきたのかについてはある程度明らかになったものの、両罰規定はどのような時期に、どのような社会・経済状況の中で、どのような必要に応じて制定されたのかという点をめぐっては、現在のところ各法を通じた統一的な事情の存在は明確には認識しえていない。 本年度は、以上のような検討結果を前提として、可能であればドイツにおける資料収集や聞き取りをも行った上で、問題解決の視点を得るよう研究を継続する予定である。
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