本年度(平成11年度)は、短期雇用の助力を得て、ノースリッジ地震に関する一次資料の内、日本国内で入手可能な分を徹底収集するとともに、来年度の米国訪問(本年度の海外渡航は都合により延期)の予備調査をインターネットを通じて行った。収集された資料の詳細な分析は来年度の現地調査結果とともに行われる予定であるが、これまでの暫定的な分析結果によると、日本のケースは、米国と比較して、将来起こりうる不確実性な状況が、社会構成員の間で共有された場合のみ、その状況が対処されるべき危機と見なされ、社会的認識の広範な共有の有無が通常事態と危機的状況を区分する。米国のように、危機的状況に関わるリスクをその発生確率に基づき算出し、その程度に応じて対応策を変えるのではなく、不確実性の共有度に応じて政策的対応が決定される傾向にある。とくに両国の危機管理政策を比較すると、国家と社会との関係、つまり権力の分散と集中が、米国では危機発生後でもかなり柔軟に調整されるのに対し、日本は通説に反し、極めて固定的であった。要するに、暫定的に結論としては、日本に危機管理システムは、米国同様明確に存在するが、その国家的関与は合理的なリスクではなく、社会的認識レベルに基づいている。 また、国内制度およびネットワークの理論的分析の新たな視点として、地域主義研究におけるネットワーク論との接点を発見できたことは、危機管理研究が、他の分野の政治分析と共有できる理論的枠組みが存在する事を示唆している。今後の展開次第では、本ケーススタディーから導出される結論が、ある程度の一般性を有する理論となり得ることも予感させる。国際ネットワークと国内ネットワークとの理論的分析は、英文論文にまとめられ、現在、英文図書の一章となるとともに米国専門雑誌に投稿中である。
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