1 本研究の目的は、ロールズ以降の「正義論・リベラリズム論争」の今日的展開に関して、その鍵概念としての、「少数派としての文化を維持していく権利(minority cultural rights)」を手がかりとして、多面的・総合的な考察を加えることにある。 2 そのためまず、本年度は、「リベラリズム論争」の諸議論のうち、リベラル第二世代が台頭した、80年代末までの議論を主たる素材として、政治的少数者のアイデンティティー擁護を巡る問題が、同論争の最も中心的な問題として主題化されるに至った経緯を、ロールズらリベラル第一世代、キムリカらリベラル第二世代、共同体論、完全自由主義等の諸論者のテキストに即しつつ具体的に再構成した。その結果、少数派としての権利に関わる諸要求のうち、最も主要なものと従来見なされてきた、エスニシティー集団の権利と、ジェンダー集団の権利の間には、従来想定されていたよりも、より大きな対立・緊急関係が存在するという新たな知見を得た。 3 更に、本研究では、今日の「リベラリズム論争」に対する、政治思想史上の位置づけを解明するため、その政治的アイデンティティー論・権理論の内容を、戦間期アメリカ・ヨーロッパのリベラリズム論におけるそれと比較検討した。その結果、今日のリベラリズム論と戦間期の議論には、主としてエスニシティー集団に対する集合的権利概念の是認という側面で共通性が見られるものの、両者の議論には、例えばその社会経済的前提条件や、ジェンダー集団に対する見解の差異等、なお重要な差異も存在するという、新たな知見を得ることが出来、この点については、次年度以降の研究中でなお解明を進める予定である。
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