1本研究の目的は、ロールズ以降の「正義論・リベラリズム論争」の展開に関し、その鍵概念としての、「少数派としての文化を維持していく権利(minority cultural rights)」を手がかりとして、多面的・総合的な考察を加えることにある。 2そのためまず、本年度は、90年代初頭以降、今日まで続く、「少数派の権利」論に対する多様な諸批判のうち、ロールズらリベラル第一世代、完全自由主義、共同体論という主要な3類型に関し、それら各々に対するリベラル第二世代からの再反論とも対応させつつ、議論の再構成・批判的検討を行った。その結果、前年度に行った、論争の80年代末までの経緯に関する分析と合わせ、論争の全体像を一応完成させることが出来た。またその過程で、「少数派の権利」論に対する理論的正当化・非正当化の根拠は従来想定されていたよりも遥かに多様であり、かかる理論的多様性は、各論者の具体的な政策論的立場にも少なからぬ差異と多様性をもたらしているという、新たな知見を得た。 3更に、本年度は、「リベラリズム論争」の諸成果の、日本社会への適用可能性を解明するため、今日の日本におけるリベラリズム研究の現状を、体系的に整理するとともに、そこにおける議論の構造の特質を、既に本研究の過程で見い出された、アメリカ・ヨーロッパにおけるそれと比較し、リベラリズム論争の諸成果のうち日本にも普遍化可能な部分を析出する作業を行った。その結果、本研究では、日本リベラルの少数派擁護論の中には、西洋リベラルの新しい「少数派の権利」概念により親近的な議論と、西洋リベラルのより古典的な普遍的人権概念により適合的な諸要求が混在し、両者の自覚的な区別や関連づけが不可欠であるとの新たな知見を得た。
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