近年、NATOのユーゴ空爆及びミサイル防衛構想に向けた反対に象徴されるようにモスクワと北京の「戦略的パートナーシップ」が深まりつつあるよう論じられることが多い。だがロシアと中国の関係を決して「パワーゲーム」の枠組のみで分析することはできない。中露の関係は4000キロを超える国境をもつという地政学的対峙、そしてその国境がロシア帝国が清への収奪によって生み出されたという歴史的経緯に強く影響されているからである。端的にいえば、国境地域の分析こそ中露関係の展開を見通す不可欠の前提といえよう。 本研究は、かかる問題意識に基づき、中露関係を国境地域の問題と協力という観点からみようとするものであるが、今年度は主に国境画定(1997年)以後の極東における中露関係の現地調査を行い、かつ中央アジアをめぐる中露関係の展開、中露の領土交渉と日露のそれの比較分析などを試みた。詳細は「研究発表」を参考されたい。 1 極東における中露関係:領土問題の解決にもかかわらず中露の国境地域はかならずしも平穏なものとはいえない。図們江プロジェクトの停滞、珍宝島の中国返還などに代表されるように国境地域に住むロシア人、中国人は双方に根深い不信をもっている。新しい知見は中国側がその現実を認識し、ロシア人の不信を取り除くべき具体的な行動を起こしはじめたことにある。時間はかかると思われるが、この地域の安定に不可欠な手順であろう。 2 中央アジアにおける中露関係:先行研究の乏しい領域のため、手始めとしてソ連崩壊以後の中央アジアにおける中露関係を歴史的に整理した。とくに中国語資料により、中国の対中央アジア外交を分析したが、当初は中国がロシアを中央アジアの「後見」役として認知し、この地域の安定を第1に動いたこと、しかしながら、近年はウズベキスタンとの連携を軸に自国の影響力を高めようとしていること、などが新たな知見として獲得された。
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