本研究はスコットランド議会開設をめぐるイギリスの諸政党の動きを分析することにより、今後のイギリス政治の行方を検討することが目的であった。1997年5月の総選挙で政権の座についた労働党は、公約に従い、スコットランド議会開設の是非をめぐるスコットランドでの住民投票を同年9月に実施した。権限委譲が増税につながるという批判をかわすために、住民投票では議会開設の是非を問う設問とともに、独自の課税権を議会に付与することの是非を問う設問が導入された。これに対して、スコットランドの分離独立を党是とするSNPは、独立の是非を問う設問も加えるべきだと主張したが、権限委譲は独立につながるという穏健派の主張が通り、共闘することとなった。住民投票では議会開設も独自の課税権も賛成多数で認められ、1999年5月に議会選挙が行われ、同年7月に議会が開設されることが決定した。ここで重要なことは、選挙制度として、追加議員制度という仕組みが導入されたことである。小選挙区制と比例代表制を組み合わせたこの制度は、ある政党の小選挙区での当選者が多ければ、比例代表での当選者が少なくなるようになっている。このため、一つの政党が単独過半数の議席を獲得することは非常に難しくなった。労働党は単独で自治政府を運営する可能性を捨てたかわりに、SNPが独立へと進む道を封じたのである。選挙戦では労働党とSNPの激しい争いが展開されたが、結局は労働党が第一党となり、自民党と連立してスコットランド政治を担うこととなった。
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