昨年度は、如何なる要因が経済システムの変革を引き起こそうとしているかを検討した。今年度は、二つの点から検討を行った。第一に、企業統治、銀行・企業間の関係、および政府・企業間の関係といった個々の経済システム要素において実際に如何なる変革が起こったかを実証研究の成果を踏まえつつ考察した。 結論として、規制緩和、金融ビッグバン、国有企業の民営化・会社化、外資導入、資本市場促進、などの政策の実施にもかかわらず、間接金融、インサイダー(従業員と経営者)によるコントロール、ソフト予算制約(赤字経営企業の整理淘汰の先送り)といった経済システムの特徴は顕在化していた。個別の企業(特に、多国籍企業および外資に買収された企業)において直接金融への転換や株主重視などにみられる変化は経済全体の変化とは言えず、経済システム変革が依然として経路依存的な体質をみせているとの結論に至った。 第二に、変革を妨げている要因とは何か、または英米型資本主義への収斂はなぜ起こっていないかを検討した。主な原因として、将来の経済システムに関する支配的発想、改革派の弱さあるいは既得権の温存を目指す保守派の強さ、経済の政治化、政治リーダーシップの不在、エリートの危機感の低下、各国の経済・市民社会の発展段階などを挙げた。これらの原因について具体的に各国(日本、中国、ブルガリア)の事例で考察した。 昨年度・今年度の検討をもとに本研究のまとめとして、「現実的」(現状維持)および「望ましい未来」(抜本的な経済構造改革が実施された場合)といった経済システム変革のシナリオを作成した。
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