マクロ経済変動における「マクロ的ショック(aggregate shocks)」と「ミクロ的ショック(idiosyncratic shocks)」の重要性を検討するための計量経済学手法の開発および実証的検証を目的とする研究を行った。このため、ミクロ的なショックとして、労働力の再配分を引き起こすショックに着目し、その影響の大きさを推定するための手段を多方面から検討した。 まず、第1の方法として、マクロデータを利用した「構造VAR」モデルによって、マクロ的ショックと(ミクロ的ショックに基づく)「再配分ショック(reallocation shocks)」を識別し、そのマクロ経済変数への影響を推定する方法を考察した。具体的には、マクロ産出量、総労働時間(総労働投入量)、労働力人口から成る構造VARモデルにより、マクロ的ショック(総需要ショック及び技術ショック)、労働供給ショック、再配分ショックを識別するため方法を考案し、その識別条件に関する経済理論的及び計量経済学的諸問題を検討した。同時に、マクロ産出量と総労働時間から成る2変量構造VARモデルを用いて、内生的経済成長モデルの妥当性を検証する手法も考案・検討した。現在は、これらの手法を日米経済に適用し推定と検定を行う研究を継続している。 第2の方法として、直接に実際のミクロデータを用いて、ミクロ経済主体間の異質性を調べることで、ミクロ的ショックの重要性を検証することを試みた。これには、労働省「雇用動向調査」の特別集計結果を利用することで、「雇用機会の創出と喪失(job creation and destruction)」を推計し、その循環的変動特性を実証的に検討する方法を採用した。とくに、雇用機会の創出・喪失をもたらす要因を事業所が開設または廃止されるためによるものと、継続して活動している事業所内でのものに分解する方法を考案し、各々の相違を検討した。さらに、通常問題とされる事業所単位でみた雇用機会の創出・喪失のみでなく、よりミクロの視点から、同一事業所内(特に拡大事業所内)で大きな雇用機会の創出・喪失が起こっていることが重要であり、それが大きな労働再配分をもたらしている可能性を実証的に示した。
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