研究概要 |
今年度は,新制度派経済学の接近方法を政府に適用することにより,政府統治の理論的整理をおこない,わが国の景気対策・行政改革の分析に応用することをおこなった。 まず,政府の分析課題を,(1)政府の市場への介入の範囲を定める,(2)政府の意思決定を規律づけるの2つに分類し,前者を政府の理論,後者を政府統治の理論と対応づけた。これまで新制度派経済学は企業組織の分析に成果をあげてきており,企業の理論,企業統治の理論という研究分野が確立されている。これと並行的な形で整理を与えたことにより,現在開拓途上にある政府の研究の範囲と課題を明確にできた。 政府統治の理論をわが国で進行中の行政改革に対して適用することにより,以下の2つの具体的問題点を指摘した。 第1に,行政改革では行政に民間企業の経営手法を取り入れようとしているが,企業的手法を使うのが望ましい活動とそうでない活動を,的確に分離することが必要である。企業的手法が何らの留保なく政府の活動にも適用可能であるという前提にたった改革は,むしろ弊害をもたらす。 第2に,行政改革の関心が執行部門の効率化に集中しているが,その前提として企画立案部門および執行部門の評価部門が正しく機能することが必要である。しかし,そのことが当然満たされると考えるのは妥当ではなく,企画立案・評価部門が国民の利害を反映して行動するような制度設計が必要となる。 また,1990年代のわが国の景気対策に対する分析をおこなった。景気循環を「市場の失敗」ととらえる,新しいケインズ経済学の視点を導入することにより,景気対策を資源配分機能に統合する理論的整理をおこなった。この整理により,現在,当初予算と補正予算で意思決定の二重基準が生じている弊害を是正することが可能となる。
|