今年度の主要な成果と次年度の研究予定は次のとおりである。 1 従来考察されることが少なかった高位聖職者J.B.サムナーを中心にして、キリスト教のコンテクストにおけるマルサス『人口論』の受容のあり方を考察した。その結果、福音主義を背景にしながら、スコットランド啓蒙の系譜の中にマルサス『人口論』が位置付け直されることで、商業社会肯定論へと変容されていく過程が解明できた。また、サムナー版のマルサス像がブリティッシュ・レヴューにおいて、キリスト教陣営に受容されていき、救貧法改正に影響を与えていく側面も解明できた。これは既発表のクォータリー・レヴューによる『人口論』の普及を補完するものでもある。この成果の一部は共同論文集において公表される。 2 ベンサム派と一線を画するオクスフォード大学への経済学の導入を分析した。経済学の社会的な普及に大きな役割を果たしたオクスフォード派のホェートリー、シーニア、メリヴェールなどは、D.スチュアートの流れをくむ一種のアプリオリズムに立脚した経済学方法論を特徴としている。この方法論の確立において変容されたマルサス『人口論』が媒介項として果たした役割を分析した。この成果は現在論文としてまとめているところである。 3 次年度は予備的な分析にとどまっているエジンバラ・レヴュー、ブラックウッヅ・マガジン、ペニー・マガジンにおけるマルサス像、なせびにまだ未着手のウェストミンスター・レヴューを分析する予定である。
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