平成11年度はベースとなる理論モデルの構築が主要な活動であった。まず労働市場における職種別市場・ネットワーク形成の可能性を分析する労働市場の均衡サーチモデルを構成した。不断に生じる企業と労働者間のスキル・ミスマッチを解消する方法として、労働市場でのサーチと労働者の企業内での再訓練の2つがある経済を考え、2つの調整方法が、企業と労働者の主体的な選択を含むこの経済の複数均衡として達成されることを示した。さらに、企業内調整均衡では、個々の労働者の技術レベルは低くなり、企業によるjob creationとjob destructionも小さくなるため、流動性の低い経済が成立するのに対し、市場調整均衡では技術レベル、流動性ともに高くなることを示した。この結果は論文"Market versus Within-firmadjustment and unemployment"として執筆中であり、9月の釜山大学・九州大学シンポジウム(釜山大学)、10月の日本経済学会(東京大学)で報告した。また社会的ネットワーク分析の延長として、市場型取引主体とグループ=系列型取引主体とのinteractionを分析できる理論モデルの構築に着手した。平成11年度末の段階では、貨幣を取引媒介とする設定を採用し、系列型取引グループがより貨幣を蓄積できるため、個々の取引の効率性を犠牲にしても、系列取引が選択される可能性を分析している。さらに評判メカニズムの分析の一部として、企業内労働市場を評判形成メカニズムが機能する場として捉えた場合の、企業・労働者双方のインセンティブの問題を整理したサーベイを作成した(「企業組織とインセンティブ」)。
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