本年度は、貧困の計測に関する過去の研究についてサーヴェイし、以下の3点について検討課題があることを確認した。第1の点は、貧困線の決定(=わが国の場合は生活保護世帯の決定)においては、生活保護者に関する実態調査等によって、記述的統計による比較は存在するが、全国レベルでどのように決まっているのか、家計の効用水準の計測といった数量的な把握な度は成されていない。第2の点は、生活保護の制度は、戦後、何度かの大きな変更があり、貧困者=生活保護対象者と見る見方に検討の余地があること。第3点は、貧困者=生活保護対象者とした場合についても、その量的な決定を分析するためのデータが整備されておらず、地域別や時系列のデータについても、その連続性に問題があり、計量経済学的な手法を含めて更に検討が必要なである。 以上の3点について、第1の点については、家計の効用水準の計測について、多費目の消費関数を使った手法を検討した。特に、その適切なモデリングをやモデル選択について検討を行い。現時点では、暫定的であるが、分析モデルの選択方法について結果を得た。第2の点については、制度変更について検討し、現時点では、貧困者=生活保護対象者という考え方も、社会的認識の一つの現れであるとして分析する可能性と、所得分配あるいは消費水準の不平等度より貧困者数を推計する方方の可能性について検討し、双方の研究方法の短所と長所を確認した。第3の点については、消費の不平等について適用した手法によって、各制度の下での貧困者数の推計を行い、それを他の制度の下での推計に応用可能である事を確認した。 次年度の研究内容として、マクロ経済変数や所得分配と貧困者数の関係を分析し、この推計結果を下に、制度変更による貧困者数=生活保護対象者の変化の原因について検討すること。地方財政支出と地域の貧困者数の決定要因について、地域のマクロ変数との関連を含めて検討する。更に、産業構造の変化と貧困者数の変化についても計量分析を行う予定である。
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