本年度の研究では、日本の都市システムに関する既存の研究資料を幅広く収集・整理するとともに、関係研究分野の現状、課題及び今後の展開方向の把握を試みた。そして、日本の都市システムを念頭に、企業や住民を基本的な経済主体とする都市・地域の経済モデルを構築し、都市システムの構造及び最適化に関する規定要因を指摘した。さらに、こうした理論的な結論に対して、日本の都市システムに関する統計データを用いて、地理情報システム(GIS)や統計分析などの手法により実証分析を行った。主な研究成果は、後掲する二つの雑誌論文にまとめられている。 まず、一つ目の雑誌論文では、都市システムの構造及び最適化を規定する要因の一つである集積の経済性と不経済性について、東京都心を中心とする半径50キロ範囲内の130余の市(区)町村に関する統計データを用いて、実証分析を行った。その結果、集積の経済性は、主に管理業務機能、金融業務機能及び公的業務機能の空間的な集中によって生み出されているが、集積の不経済性は、主として住宅地価の高騰、通勤・通学時間の延長化及び都市公園面積比率や公共下水道普及率などの生活環境水準の低下によって表わされていることが確認された。 次に、二つ目の雑誌論文は、都市システムの構造及び最適化を規定するもう一つの要因であるネットワークの経済性を実証分析したものである。ここでは、東日本の都市システム、道路ネットワークと工業生産性の地域分布を中心に、同地域にある600余の市町村の統計データ及び地図情報データを用いて、実証分析を試みた。その結果、交通ネットワークの経済性は、都市集積の経済性と同様に地域の工業生産性ならびに都市システムの発展に大きな影響を与えていることが検証された。
|