本研究の目的は、企業間の資本関係と財の取引関係の集中化が、企業の実物投資やパフォーマンスにどのような影響を与えているかを検証することにある.本年度の研究では、親会社と取引上密接な関係にある子関連会社は、財の取引に伴い企業情報が流れることで資本市場における情報の非対称性の問題を部分的に回避し、親会社からの出資または融資を受けることで外部資金の調達費用が低くなって過小投資の問題を緩和できているか、について検証した.まず、資本市場の不完全性が企業の投資行動にどのような影響を与えているかについて扱っている先行研究を整理した.次に、有価証券報告書により企業の資本関係および取引関係に関するデータベースを構築した.データベースの構築後、1994年と1995年それぞれのクロスセクション・データを用いて実証分析を行った.ここでは、上位10株主が70%超の株式を保有している企業について、売上高に占める関係会社への売上の比率が50%超と取引が集中している企業群とそうでない企業群とで、内部資金が投資に与える影響が有意に異なるかを、投資関数の推計により検証した.結果は、1994年については仮説の予想する方向の差があるが、1995年は理論仮説とは逆の差があるというものであった.ここでは、静学モデルに基づいた推計モデルをクロスセクション・データにより推計することで仮説の検証を行っており、特に内部資金を外生変数であると仮定しているため限界が生じている.今後、企業が将来の資本市場の動向を予想して内部資金を蓄積するという行動をとり込んだ動学モデルを構築し、パネル・データによる分析を行うことを検討している.
|