平成11年度の研究では、温暖化ガス排出抑制を目的とした他国間の排出権取引において所得再分配効果が働き、厚生が悪化する国が存在し得ることを示した。 従来の研究は、排出権取引を導入することによる、効率的な排出抑制に焦点をあてていた。すなわち、経済全体の排出目標を設定し、それと同量の排出権を各国に適当に配分することで、市場取引を通じて排出目標が達成される、というものである。直接規制や課税に比べて、排出権市場取引の方が排出抑制という目標達成に関しては効率的であることは既に示されている。 しかし、排出権取引には所得再分配効果があるため、公平性の問題が生じる。本研究では、排出量が過小に割当てられた国は、排出権購入のために所得が減少し、負の所得効果から厚生が悪化する可能性があることを示した。この結果から、1997年のいわゆる京都会議で、途上国が厳しい排出量の割当てに反対したことを説明できる。温暖化ガス排出抑制を目標とした排出権割り当てに関しては、排出抑制目標の達成に関する従来の効率性の議論だけでなく、公平性の観点にも注意を向ける必要がある。 本年度の研究では、地球環境を国際公共財とみなした公共財の自発的寄付メカニズムを用い、主に静学分析を行った。来年度は、このモデルを経済成長を含む動学モデルに拡張し、排出権取引が経済成長と厚生に与える影響を分析する予定である。
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