研究概要 |
排出権取引は温暖化ガス排出抑制の有効な手段として認識されている。もし政府が割当量を減らせば、それにともなって経済全体の排出量も減少するが、一方で経済活動が阻害されるおそれがある。このトレードオフ関係を分析するのが本研究の目的である。 これまで環境政策が経済成長におよぼす影響については多くの研究がなされてきたが、そのほとんどが環境税政策についてであり、排出権取引に焦点をあてたものは少ない。Stokey(1998)およびGrimaud(1999)が例外であるが、両者は排出権取引制度導入が社会的に望ましい配分の達成に有効であることをしめしただけであり、排出権の割当減(もしくは増)が経済成長に与える影響については分析していない。本研究はこの未解決の問題に取り組む。 本研究の主要な結果は以下のとおりである;排出権割当量の減少は経済成長のみならず環境に対しても負の影響をもたらす可能性がある。排出権割当量の減少は次の二つの効果をもつ。第1に、排出削減による直接的な環境改善効果であり、これは将来世代の環境資産増大をもたらし,長期的に貯蓄と環境投資の増大をもたらす;つまり、経済成長と環境に正の効果をもたらす。第2に、間接的な環境悪化効果である。割当量削減によって企業の生産が阻害され、それが家計の所得減少をもたらし長期的に貯蓄と環境投資の減少をもたらす;つまり、経済成長と環境に負の効果をもたらす。ある条件下では、負の効果が正の効果を上回ることが示された。したがって、政策決定者は排出量割当の変更に関して2つの効果を注意深く見守る必要がある。
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