今年度は、研究に関連した文献を収集し、理論的整理を行うとともに、わが国の主要な大規模小売企業に対するヒアリング調査を実施し、業態開発プロセスの事実発見に努めた。この結果、明らかになった業態開発プロセスに関する事実は、以下の2点である。 1.業態開発あるいは新業態の創出には店舗レベルの競争構造が強く影響している。この事実は、たとえば伝統的な小売商業形態論が新業態の創出において業態間、業態内の競争を抽象的・一般的に理解してきた捉え方とは決定的に異なる。小売企業の業態開発プロセスは、業態開発がそうした「真空状態」のなかで生み出されるのではなく、特定の店舗の競合店に対する競争優位を確保するという現実のコンテキストにおいて行われることを示している。さらにこのことは、店舗レベルでの競争優位を確立することができた業態のみが新業態として発展することを意味する。 2.業態は必ずしも地域的、時間的に不変ではない。業態が地域的に不変ではないのは、調査を行った店舗がそれぞれの商圏・競争の特性に適合した品揃えを行っていることをさす。また時間的に不変ではないのは、それぞれの店舗において不断に品揃えの修正が行われていることをいう。ある業態の特徴をもつ特定の店舗は、地域的にも時間的にも業態を変容させていくのである。この事実は、業態の変容を静態的に捉えてきたこれまでの小売商業形態論により動態的な視点を組み込む必要性を喚起するものである。 次年度は、以上のような文献による理論的整理とヒアリング調査による事実発見にもとづき、アンケート調査を含むより詳細な業態開発プロセスの解明に向かう予定である。
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