日本企業の国際経営活動が、海外拠点の増加や現地化の進展に伴って多様化するなか、それぞれの経営体には日本人と各現地の人々、あるいは第3国の人材の往来によって多文化組織が形成される。本研究の目的は、これらの多文化経営組織における人的資源管理が、日常の組織内においてどのような問題に直面しているのかという視点に立脚し、その問題点の所在、およびそれらを解決するための方向性を模索することにある。 本年度は、多文化社会と言語に着目し、在外企業の中でも、アジア地域の地域統括会社が集中し国際事業の展開が著しいシンガポールでのヒアリング調査を実施した。また、日本企業の海外事業に付随する経営と異文化間コミュニケーションの問題に論点をしぼり、とくに国際経営と言語コミュニケーションとの関係について3種類の質問紙を作成し、郵送法により、各質問紙につきそれぞれ1340社を対象に調査を実施した。本調査の基盤にある理論的フレームワークは、国際経営活動を行う際に生じる言語を原因とするミス・コミュニケーションや、翻訳、通訳、語学研修費などの有形無形の非効率性を、言語コストという点から捉えることに独自性がある。3種類の質問紙調査の結果は、現在、一部のデータを解析中である。 現時点で得られた知見としては、(1)日本企業が、国際経営を行う上で、英語を主とする言語能力の獲得にはとりわけ重要性を痛感しているのにも拘わらず、総体的にはその具体的対応策にあまり積極的姿勢を示していないこと。(2)製造業と非製造業とでは、業務内容や組織の性格上、共有される組織文化の側面に違いが見られ、英語という異言語に対する必要性や度合いが異なること。(3)日本企業の場合、海外現地企業の現場の方が、英語の重要度をより体験的に意識しており、国際経営と言語における根源的な問題は、現地とのやり取りにおける本社側の日本語過多の意識が障害になっていること、などが挙げられる。 次年度は、質問紙調査から得られたデータの詳細な統計分析と、日本以外のアジアの国々における異文化対応能力への意識調査を実施することによって、国際要員の育成と言語能力をとりまく人的資源管理の具体策について、国際比較の論点を織り交ぜて、探求を進めたいと考える。
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