まず原価企画の海外移転の実証研究を実施するにあたり、管理会計の領域での導入研究が参考になるという認識から、最近欧米で盛んに行われているABC/ABMの導入に関する先行研究のレビューを行い、以下のことが明らかになった。まずこれまで管理会計の領域において導入の問題が軽視されてきた背景には、技術的思考及び経済合理主義という従来的思考がある。近年行われている導入研究は、管理会計システムの導入に対する組織的な抵抗に注目することによって、従来的思考に代わる説明を与えようとする試みであるということができる。これらの導入研究においては、導入プロセスにおける行動的・組織的な要因や導入が行われるコンテクストが導入の成功に重要な成功を及ぼす要因として重視され、いわゆる「管理会計の遅れ」を解消する上で一定の役割を果たすものであると考えられる。しかし、管理会計システムの導入研究を行う上では、移転の成功の程度をどのように評価するかということが重要な課題となっている。 また、現在は、郵送による質問票調査を行うための分析枠組みの構築作業を行っている。この分析枠組みにおいては、特に原価企画の海外移転の知識移転としての側面に注目し、関連領域における先行研究から知識移転に影響を及ぼす要因を抽出し、それらの要因が原価企画の海外移転にどのような影響を及ぼすかという点に焦点を当てている。この点、例えば、原価企画システムの各サブシステムは、全体システムへの依存の程度及び明示化の程度という2つの次元で特徴付けられ、それらの特徴がサブシステム間における移転の困難性の相違に重要な影響を及ぼすものと考えられる。来年度は、質問票を作成し、郵送による質問表調査を行う予定である。
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