本年度の研究実績は以下の通りである。まず、原価企画の国際移転状況の把握と調査の実施可能性を検討するために、英国及び米国に進出している日本企業数社を対象として現地でのヒヤリング調査を実施した。しかしながら、多くの企業が原価企画の海外移転の必要性を認識していながらも、その進展状況は進んでいるとはいえない状況であり、当初想定していた多数の企業を対象とする郵送による質問票調査は断念せざるを得なかった。代替的な調査方法としては、フィールドリサーチが有効であると考えられたが、長期滞在が必要であり、その機会は得られなかった。 本年度の研究成果として最も重要なものは、原価企画の国際移転を分析するためのフレームワークを構築した点である。当該フレームワークの特徴は、原価企画の国際移転を阻害するものとして、組織成員のモチベーションに関わる障害(motivational barriers)と知識移転に伴なる障害(knowledge barriers)の2つの障害を認識している点である。従来、コストマネジメントの導入研究においては、前者の障害が重視される一方で、知識移転という視点が欠けており、当該フレームワークはその欠点を補おうとするものである。 また本研究の研究の成果は、管理会計領域において、コストマネジメントの導入研究としての広がりをみせている。従来、管理会計研究においては、システムの技術的な設計に関する問題が重視される一方で、導入に関わる問題が軽視されてきた。しかし本研究の成果を報告する中で、日本の多くの研究者の中に導入研究の重要性の認識が広がっており、その結果として、日本会計研究学会において導入研究に関する特別委員会が設置された。研究代表者も委員会メンバーとして、本研究から得られた成果を活かし、導入研究プロジェクトのフレームワークを構築する上で重要な貢献を行っている。
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