1 リーマン多様体の上にはラプラス作用素を通して熱核が定義される。私は、加須栄篤氏(大阪市大)との共同研究において、コンパクト・リーマン多様体達の間にその熱核を使って、新たに距離を導入し、それをスペクトル距離と名付けた。そして、多様体の列がスペクトル距離に関し収束するとき、その極限空間の持つ性質についてこれまで調べてきた。そして、幾何学的に興味深い例に対し、それを応用して、スペクトル収束の例を構成してきた。本年度は次の3つの問題について加須栄篤氏(大阪市大)との共同研究を行った。 (1) 平均曲率が一様に有界な( branched )曲面の列を考えると一般に bubbling と呼ばれる現象が起きるが、スペクトル収束に関しては、それに伴って熱核が分解することが分かった。これはグロモフ・ハウスドルフ収束には現れない現象である。 (2) topologyが無限に行く場合における、熱核の平均化作用について (3) 主 $S^1$束の接続計量の列でスペクトル極限を考えると、一般に、底空間の部分空間上でファイバーが退化する現象が現れることが分かった。 2 極を持つリーマン多様体の曲率が無限遠で-1に収束するとき、その収束のオーダーと固有値の非存在について、考察を試た。そして、距離の逆数のオーダーで-1に収束するとき、ラプラス作用素の十分大きな固有値は存在しないことが分かった。
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