研究概要 |
本年度は、Markov過程のwavelet解析に関する最も基礎的な部分を定式化した。これにより、Markov過程の時間-周波数解析ということに関して、確率論的・解析的な設定でのひとつの考え方が与えられたと考えている。我々のシナリオは次のようなものである:Markov過程自体を解析するよりもそのwavelet係数を解析した方がいいことがある→wavelet係数に関する形式を作ってそれを解析することを行う→形式を考えるwavelet係数の数列空間および元の過程の関数空間としてあるstochastic Besov空間を定義し、そこでは通常のBesv空間と同様に上下からParsecval's inequalitiesが成り立つようにする-*形式の上からの評価は元の過程の性質がわかっているときに、wavelet係数から作った形式を元の過程のBesovノルムで評価するという順問題の形になり、元の過程の性質・クラスが反映されることになる。下からの評価はその逆であり、元の過程の性質がわかっていないときに、wavelet係数から作った形式の列の収束が調べている過程の性質を特徴づけるという逆問題の形になる→dilation jとtranslation kに関する形式をjを止めてkに関する列と見做したときに、各jでMarkov過程となる場合に、Markov過程に関する大偏差原理等により形式の評価を得ることができる。 具体的にはこれまで以下の点について調べた。先ず、(i)wavelet係数{s_<(j)>,k}が、各jでkの列としてMarkov過程になるための条件を調べた。これは当該分野において基本的に必要な命題である。次に、(ii)wavelet係数列に対する形式の収束を考えるための関数空間であるstochastic Besov空間を定式化した。Wavelet係数から作られた形式をwaveletの属するstochastic Besov空間のノルムで評価すること、さらにstochastic Besov空間のノルムを元のMarkov過程の一種のnormalized Besovノルムで評価することを与えた。ただ、現在のところ、上から評価しか得られておらず、下からの評価は今後の課題である。この上からの評価により、元のMarkov過程からwavelet係数への連続性が得られたことになる。 この議論では、Littlewood-Paley解析のメリットである「形式の対角成分のみを使って形式を評価できる」性質から、wavelet係数の分散だけを解析すればよく、共分散を解析する必要はない。それらの成果を応用して、(iii)いくつかのクラスのMarkov過程のwavelet解析を行った。Brownian martingaleやBrownian functional、複数個のパラメータを持つPoisson過程やjump Markov過程や確率微分方程式の解として与えられる過程の生成作用素の解析等。
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