研究概要 |
申請者はこの1年間,反応拡散系のひとつである2種類の高分子からなる高分子鎖の相分離過程を記述した偏微分方程式について,研究を行ってきた。実験的には様々な相分離パターンが観測されており,特に生成されるパターンの形状,遷移過程,それらの2種類の高分子の成分比に関する依存性の問題は物理的に重要である。申請者はこの方程式について,矩形領域における平面波解の存在と安定性,および円領域における円状解の存在と安定性についての解析を行った。同時に,計算機の整備と数値シミュレーションを行ってきた。より詳しく言えば次のとおりである。 数学的な考察から,界面の厚さパラメータを小さくすると,パターンは複雑かつ微細になることが知られている。このことは,滑らかな極限界面が存在しないこと,微細なパターンを捕らえるために厚さパラメータに依存した変数によって空間スケールを変換する必要があることを意味している。申請者はリスケーリングした方程式において,領域が矩形または円領域の場合には滑らかな極限界面が存在することを示し,定常解の存在およびその安定性を特異摂動法によって示した。また、高次元問題の数値シミュレーションを行うための準備として,空間1次元の場合の数値シミュレーションを行った。 以上のように研究期間の1年目には,平面波解や円状解の存在について数学的に示すことができた。平面波解や円状解が周期的な空間パターンを構成する基本的な解であることから,次年度は,(1)これらの基本解どうしの相互作用やパターン形成の遷移過程についての研究を行い,(2)数値シミュレーションでは高次元問題に着手する予定である。
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