等方弾性体にある変形を加え、弾性体内に応力(残留応力)を生じさせたとする。この状態からさらに弾性体に変形を加える場合、この第2の変形は、等方弾性体の弾性係数のほかに残留応力項をパラメターとして含む非等方弾性体方程式により支配される。本年度は、この方程式に対する境界値逆問題、すなわち、弾性係数および残留応力を未知として、第2の変形における境界面での変位と表面力との対応関係を表すDirichlet to Neumann mapから、残留応力および弾性係数を決定する逆問題を考察した。この問題は、材料の製造、組立等の加工過程で材料内部に予期せずに生じてしまった残留応力に関する情報を、表面での観測から得ようとする非破壊検査に由来する。本年度に得られた成果は以下の通りである。 1.非等方弾性体方程式を扱うStrohの定式化を基礎にして、Dirichlet to Neumann mapの主要部であるサーフェス インピーダンスの表示式を導出し、境界値逆問題への手がかりを与えた。この結果は、平成11年6月、米国のヴァージニア工科大学における非等方弾性体専門の国際研究集会"Recent developments in anisotropic elasticity"にて投稿、発表した。 2.残留応力項を含む弾性体方程式の境界値逆問題において、サーフェス インピーダンスの表示式を用い、Dirichlet to Neumann mapから境界面での残留応力および弾性係数を決定することが可能であることを示した。この結果は、応用力学論文集に掲載された。 今後、境界面での残留応力および弾性係数の微分係数を決定すること、さらには、内部における残留応力および弾性係数を決定すること、等の境界値逆問題に展開していくことを計画している。
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