1.残留応力を含む弾性体は、自然状態にあったときの弾性体の弾性係数の他に、残留応力項をパラメターとして含む非等方弾性体型の方程式により支配される。そこで、自然状態では等方的であった弾性体に残留応力が生じた場合に、境界面での変位と表面力との対応関係を表すDirichlet to Neumann map(境界での観測に対応)から残留応力および弾性係数(ラーメ係数)を決定する逆問題を考察する。今年度は、残留応力およびラーメ係数の微分値を決定することに力点を置いた。得られた結果は以下である:Dirichlet to Neumann mapから境界での残留応力の微分値を決定する手続きを与えた。さらに、境界面から内部に向かって法線方向にDirichlet to Neumann mapがみたすRiccati型方程式から、内部(ただし境界の近く)での残留応力の微分値の近似値を求める手続きを与えた。同時にラーメ係数についても、境界での微分値、および内部での微分値の近似値が得られる。 2.上記1.での設定では、方程式の係数は領域全体で十分なめらか、領域の境界も全体で十分なめらかと仮定し、観測に対応するDirichlet to Neumann mapは、境界全体で定義されている。一方、係数、領域の境界に局所的な有限階の正則性のみを仮定し、局所化したDirichlet to Neumann mapから、その局所化した境界点での係数の値、および有限階の高階微分の値を決定できるか否かを考察することは、工学的見地からより現実的であるといえる。そこで、基本的なスカラー導電方程式に考察を戻し、局所化されたDirichlet to Neumann mapから、境界での導電係数の値および境界法線方向の微分の値を同時に再構成する公式を与えた。この成果は2001年1月韓国ソウル大での日韓共同逆問題シンポジウムにて発表した。
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