これまでの研究により、遷移過程に現れるパターンを扱う場合に大域的な分岐構造を知ることは大変有用であり、より多くの発見と理解をもたらすことがわかっている。本研究の目標は、空間1次元の反応拡散方程式を差分法にて空間離散化した際に得られる高次元力学系(100-1000次元程度)の分岐解析に特殊化した、高速な分岐解析ソフトウェアを開発することであった。 本年度は、昨年度の成果を踏まえ、実際にソフトウェアの組み上げを行った。開発環境としては、行列計算を多用するプログラムを効率よく開発することが可能なMATLABを用いた。これにより、既存の十分テストされた行列計算アルゴリズムを用いることができ、開発時間の短縮と、計算の信頼性を同時に確保することが可能となった。結果、かなり大きなシステム領域における1次元定常パターンの固有値および固有関数を比較的高速に求めることが可能となり、さらには2次元軸対称解の安定性解析も可能となりつつある。今回開発したソフトウェア資源をより発展、活用することで非線形散逸系に現れる複雑なパターンを理解でき、当該分野のよりいっそうの発展に寄与するものと思われる。事実、今回の研究において、1次元反応拡散系に現れる時空カオスについても、このようなソフトウェアによる分岐解析が有用であることが証明され、実際に研究論文として発表することができたことも、本研究の大きな成果であるといえる。
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