研究概要 |
2次元外部領域における弾性体の方程式の初期-境界値問題について、線形化方程式、非線形方程式の解の漸近挙動等を調べることを目的としているが、特に解のエネルギー減衰のオーダーに大きく関わると思われるレーリー波の性質を明らかにすることを研究目的とした。 境界のある領域で弾性方程式を考える場合、ノイマン境界条件の時には、境界上を伝わるレーリー表面波が生じることが知られている。昨年度より、等方的な3次元半空間の媒質の場合に線形の弾性方程式によって記述される弾性波についてエネルギーの分布や時間にともなう挙動を調べているが、特にレーリー波のエネルギーについては昨年の研究結果に加え、より一般的な領域で減衰のオーダーが求められることがわかった。それにより、それ以前に知られていたエネルギー分布の結果との対比が可能になり、その精密化になっていることが明らかになった。その際に、レーリー波の局所エネルギーの時間減衰のオーダーも得られたが、これは2次元における弾性波の局所エネルギー減衰のオーダーよりもかなり大きく、表面波とはいえ3次元的な性質があることを表している。今回の研究のなかで、一般には、境界からある程度離れた領域にもレーリー波のエネルギーが境界からの距離に応じたオーダーでしみ出すとみられることを指摘したが、そのこととも対応していると思われる。 しかし、この減衰オーダーは,境界のない3次元空間での局所エネルギーが指数減衰することと比較するとはるかに遅い。実際に地震等で観測される弾性波において、内部波は通り過ぎやすい性質を持ち、ある意味でのホイヘンスの原理に対応するのに対し、レーリー波はとどまりやすい性質を持っていることと対応していると思われる。そのことを数学的に表現するために、Lax-Phillips式の散乱理論を、半空間の弾性体に対して展開することを考え、まず2層媒質の波動について考えた。この場合も、層による媒質の伝播速度の違いから表面波が生じる。その結果、全空間の場合に生じるホイヘンスの原理が境界による表面波の影響で崩れることが、今回の研究により明らかになった。
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