本年度は主として、2階非線型常微分方程式の中で最も基本的なクラスと考えられる3階線型方程式に対応する場合について、そのStokes曲線の大域構造の解明に取り組んだ。具体的には、方程式の独立変数に関するFourier変換を利用する視点に立って、コンピューターによる数値実験も援用しながらの解析を行った。その結果、元の方程式のStokes曲線の構造が、Fourier変換像の方ではある種の相函数に対する「一般化された最急降下路」の幾何的構造に対応している事実が明らかになった。「一般化された最急降下路」とは、通常の意味の最急降下路がFourier変換した方程式のStokes曲線と交わる度に新たな最急降下路を分岐させて得られる樹木の形をした集合を表し、2つの異なる鞍点がこの「一般化された最急降下路」によって結ばれるという状況が元の方程式のStokes曲線に対応する。これは、Laplace型方程式の場合における積分表示に対する通常の最急降下法と完全WKB解析の良く知られた関係が、一般の場合にも修正された形で成立することを意味する。高階線型方程式のStokes曲線の大域構造を完全に決定するには未だ不十分なものの、この方法は実用上かなり強力であると考えられる。しかも、超局所解析との関連という観点からも非常に興味深く、その理論的な整備に現在取り掛かっている所である。 一方、Painleve方程式の任意パラメータを含んだ形式解(インスタントン解)の解析的な意味付けについても若干の考察を行った。特に、既存の結果を組み合わせることで、I型方程式の場合にインスタントン解と真の解との対応関係を明らかにすることができた。しかし、一般の場合はまだまだ問題が多く、これに関してJoshi氏(豪)を訪問し意見交換を行った。Joshi氏とは、来年度も連絡を取りあってこの問題について議論を深める予定である。
|