多体量子力学系に対する散乱理論において、まず外力場が時間周期的に変動する一様電場である場合を考え、その電場の時間平均がゼロでない場合には、一般のN体系に対して漸近完全性が成立することを示した。外力場が時間に依存するということで、考える系に対してはエネルギー保存則が成立しないことが障害となり、これまで未解決のままであった大きな問題の一つである。具体的には、漸近完全性を示す前段階としてasymptotic clusteringという重要な性質を証明することに専心した。この性質は、比電荷の異なる粒子同士は漸近的には同じクラスター内に留まり得ないということを示しており、電場の特性を反映した、物理的に考えても極めて自然な性質である。 また外力場として時間的に不変な一様磁場を考え、その中での散乱理論を研究した。これまではGerard氏とLaba氏による研究があるが、そこでは系の中に電荷の面で中性なもの、つまり非荷電な粒子やクラスターがあることを許すことができなかった。そこで、非荷電な粒子が混在するような系を考えることにした。これは非荷電なクラスターを実現する単純な例であり、物理的にも中性子などのような粒子があることから重要な場合であると考えられる。まずは最も単純な例として、荷電粒子、非荷電粒子がそれぞれ一つずつある2体系を考え、その系の漸近完全性を示した。このような単純な系でさえ、非荷電なものが混在するという障害ゆえにこれまで未解決であったものである。その後、一般のN体系を考え、その系には荷電粒子が一つしかない場合には、やはり漸近完全性が成立することを示した。 以上の結果のうち、一番目と二番目の前半の問題については、学術論文として学術雑誌に掲載される予定であることを付記しておく。
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