超幾何微分方程式の線形独立な解を並べることで、超幾何微分方程式の定義域から射影空間への多価写像が得られる。この多価写像の像が対称空間でモノドロミー群がこの対称空間に作用する数論的な群になり、かつ逆写像が一価となるものがいくつか知られている。これらの例たちはいずれも合流がおきていない確定型の特異性をもつもののみである。合流型の超幾何微分方程式に関してでは起こり得ないこの特別な状況をよりよく理解するために、その逆写像の具体的な記述を代数幾何学や保形関数論でも特に重要であると考えられるものに対して寺杣氏(東大・数理)と共同で以下のように行った。 3次元射影空間の3次曲面Xで分岐するcyclicな3重被覆Yに対して、そのIntermediate Jacobian J(Y)は、主偏極をもつアーベル多様体である。J(X)はあるリーマン面Cとその上のinvolutionσに関するPrym varietyとして実現できる。Prym varietyの周期を記述する微分方程式は4変数階数5のF_Dと呼ばれる超幾何微分方程式であり、線形独立な解を並べることで3次曲面のモジュライ空間から4次元複素超球への多価写像が得られる。そのモノドロミー群はZ[ω]係数のユニタリ群のレベル(1-ω)の主合同群となる。テータ関数を用いて表示されるIntermediate Jacobian J(Y)上の有理型関数をリーマン面CからJ(Y)へのある正則写像を用いてC上に引き戻すことができる。こうして得られるC上の有理型関数たちを用いて3次曲面Xからリーマン面Cを構成した際の情報を記述することができる。実際E_6型のワイル群が作用する80個のIntermediate Jacobian J(Y)の3等分点を利用して、逆写像を具体的に与えることができる。
|